転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


5 まさかこれが僕のチート能力?



 それはある日の夕方、いつものように兄弟たちの剣の練習でできたマメや弓の練習で荒れた指先をキュアで治療していた時の事。
 その様子をトレードマークの三つ編みを揺らし、首をかしげながら不思議そうに見ていたキャリーナ姉ちゃんがいきなり、

「ルディーン、わたしにもまほう、できるかな?」

 僕に向かってこんな事を言ってきた。
 その言葉に驚く家族一同、だってまさか我が家から僕以外に魔法に興味を持つ子が現れるなんて誰も思っていなかったのだから。

 と言うのも肉体派ばかりのこの村では、ちまちま勉強をして魔法が使えるようになるよりも剣を振るって体を鍛える方がいいと言う人ばかりだから、僕が魔法を使っていても今まで誰も興味を示さなかったからなんだ。

 そう言えばこの村で魔法を使えるのって、教会にいるおじいちゃん司祭様と僕くらいだっけ。
 人口が200人ちょっとの小さな村とは言え、そう考えるとちょっと少なすぎ何じゃない? 大人はみんな前衛系のジョブ持ちだから解らないでもないけど、子供たちは図書館に教材もそろっているんだから何人かは興味を持ってもおかしくないと思うんだけど。

「ねぇ、ルディーン。どうなの? わたしもできるの?」

 あっと、考え事をしているうちにお姉ちゃんが痺れを切らしたらしく、僕の手を取ってブンブンと振り回し始めてしまった。

「わぁ、おねえちゃん、まって! こたえるから、まってってば」

 こてん。

 7歳児の力で振り回されては小さな僕の体なんて川に落ちた木の葉のようなもの、手の動きに合わせて体ごと振り回されて、ついに転がってしまった。

「わっ! ルディーン、だいじょうぶ? って、わぁ」

 そんな僕を見てキャリーナ姉ちゃんが慌てて助け起そうと腕を引っ張ったんだけど、彼女の力では転がった僕の体を支える事ができなかったらしくて、バランスを崩し。

 ごちん。

 そのまま僕の方へ倒れこんできて頭と頭がぶつかってしまった。

「いたい……ぐすっ……うわぁーん」

「わぁーん」

 この後は二人して鳴き声の大合唱。
 その声を聞いて慌てて飛んできた両親になだめられて僕たちが泣き止んだのは、それからしばらく経ってからの事だった。



「ごめんね、ルディーン。いたかった?」

 夕食の時、隣の席に座ったキャリーナ姉ちゃんが僕の額をちっちゃな手でなでながら謝ってくれた。
 だから、

「へいきだよ、おねえちゃん。ぼく、おとこのこだもん」

 そんなお姉ちゃんに、僕はにっこりと笑ってそう返事をした。

 その様子を見て、その割には泣いていたじゃないか、なんて突っ込むような人はうちの家族にはいない。
 晩御飯を囲みながら、みんな笑顔で下の姉弟二人の仲直りの様子を見守ってくれていた。

「よかった! それでねぇ、わたしにもまほう、できるとおもう?」

 どうだろう? そう思って、僕はとりあえずお姉ちゃんのステータスを確認してみた。

 キャリーナ
 Lv0
 ジョブ
 サブジョブ
 一般職
 HP      : 8
 MP      :16
 筋力     : 7
 知力     : 8
 敏捷     : 8
 信仰     : 6
 体力     : 6
 精神力    : 9
 物理攻撃力 : 3
 攻撃魔力   : 3
 治癒魔力   : 2

 MPは僕より低いけど、他のステータスは軒並み僕より上だ。
 攻撃魔力も治癒魔力もちゃんとあるし、数値が下の僕が使えるんだからキャリーナ姉ちゃんでも使えるんじゃないかな?

「やってみないとわかんないけど、たぶんだいじょうぶだとおもうよ。ぼくでもできたし」

「ほんと? やったぁ!」

 両手をあげて喜ぶお姉ちゃん、その顔は笑顔でいっぱいだ。

「ならさ、ならさ、ルディーン。わたしにまほう、おしえてくれる?」

「いいよ! いっしょい、れんしゅうしよ」

 そんな笑顔に釣られて、僕もニコニコしながらそう答えた。

「はいはい、二人とも。姉弟仲がいいのはいい事だけど、ちゃんとご飯も食べないとダメよ。大きくならないと魔法もうまくならないわよ」

「「はぁーい」」

 そんな僕たちのやり取りを見ていたお母さんが、話が一段落ついたのを確認して注意を入れてくる。
 そう言えば今は晩御飯の時間だった。
 お母さんの言う通り、ちゃんと食べて大きくならないとステータスも伸びないだろうから、好き嫌い無くしっかり食べないとね。

「ところでキャリーナ。何故いきなり魔法を使いたいなんて思ったんだ? 前はそんな事言ってなかっただろ」

「だってわたし、まだけんのおけいこしちゃだめだから、おてつだいがおわったあとはひまなんだもん」

 お父さんの質問にキャリーナお姉ちゃんは手に持ったスプーンを振り上げながらそう答えた。
 それを聞いて、ああなるほどと納得顔のお父さん。

「来年になればキャリーナも練習を始められるけど、それまではなぁ」

 そう、来年になればキャリーナ姉ちゃんも8歳になる。
 そうすれば武器の練習が解禁されるんだ。



 他の村は知らないけど、僕の住むグランリルの村は8歳になるまでは剣や弓の練習を規則で禁じられている。
 これは棒っきれを持ってのチャンバラごっこでさえやってはダメと言う厳しいものなんだけど、それにはちゃんと理由があるんだ。

 普通の動物と違って魔物の皮はとても硬くて剣の刃をきちっと立てて斬らないと傷つけるどころか弾かれてしまったり、最悪剣のほうが折れてしまったりすることがあるんだって。
 そうならない為にもきちっと基礎を固める必要があるんだけど、小さい頃に木で作った模造刀などで練習をさせると金属でできた本物の剣で練習を始めた時、その重さの違いで刃筋がぶれてしまって、かえって剣技の習得に支障をきたすことがあるらしいんだ。

 場所柄、将来は絶対に魔物と戦う事になるこの村の住人にとって、それはまさに生きるか死ぬかに直接かかわってくる事になるから、金属製のショートソードを振る事ができるようになる8歳になるまではけして剣の真似事はしてはいけないって決められてるんだってさ。


 次の日のお昼過ぎ。
 いつものお手伝いを終えたあと、僕とキャリーナ姉ちゃんは魔法の練習をしても周りに迷惑のかからない場所と言う事で資材置き場に来ていた。
 それにここなら滅多に人は来ないから、いくら失敗しても恥ずかしくないしね。

「ねぇねぇルディーン、なんのまほうのれんしゅうするの? わたし、おけがをなおすやつがいいなぁ」

「だめだよ。ぼくもねえちゃんもけがしてないもん。きゅあのれんしうだと、さきにけがしないといけないんだよ」

 傷がない状態ではキュアをかけても効果が発揮しないから、成功したかどうか解らないんだよね。

「けがをするのはいたいからやだ。べつのがいい!」

「そうだね。だからあかりをつけうまほうにしよ?」

 流石にキャリーナ姉ちゃんも痛い思いはしたくないから別の魔法でもいいと言ってくれたので、僕は自分が使えるもう一つの魔法であるライトを提案した。
 本当は僕と違って姉ちゃんは攻撃魔力が3もあるし、言葉も難しいものじゃなければちゃんと話せるからマジックミサイルとかを教えた方がいいのかもしれないけど、見本を見せてと言われた時にうまく呪文が言えないから使えないというのは恥ずかしいから、僕はお口にチャックする事にしたんだ。

「あかりをつけるの?」

「そうだよ。ほら、こういうまほう。らいと」

 魔力を循環させて呪文を唱えると、僕の指先がいつものようにぼぉっと光を放った。

「わぁ、ほんとうにひかってる! すごぉい」

 キャリーナ姉ちゃんは初めて見る魔法の光に大興奮だ。
 僕の手を取って指先を顔の前まで持っていって、色々な方向から眺めながらきゃっきゃと笑っている。
 そして。

「ルディーン、わたしもゆび、ひからせたい! はやくまほうおしえて」

「うん、いいよ。まずはね、まりょくおね、からだのぜんたいにひろがうようにすうんだよ」

 僕はいつもやっている魔法の準備の仕方をお姉ちゃんに教えた。
 ところが、僕の話を聞いてキャリーナ姉ちゃんは不思議そうに小首をかしげた。

「……? ルディーン、まりょくってなあに?」

「え? まりょくはまりょくだよ? からだのなかにあう、ふしぎなちから」

「わたし、ふしぎなちからなんてないよ? ルディーン、もしかしてそのふしぎなちからがないとまほう、つかえないの?」

 さっきまで笑顔だったキャリーナ姉ちゃんの顔がどんどん曇って行く。
 このまま放って置いたらすぐに泣き出しそうだったので、僕は慌ててその考えを否定した。

「だいじょうぶ、おねえちゃんにもふしぎなちからはあるよ。まほうのほんにも、まりょくはだれにだってあるってかいてあったもん!」

「ほんと? ほんとにわたしにもある?」

「うん! としょかんにあったまほうのほんだもん、かいたのはきっとえらいひとだから、ぜったいだよ!」

「えへへ、そっかぁ。えらいひとがうそをかくはず、ないもんね」

 偉い人が書いたと言う言葉を聞いて安心したのか、キャリーナ姉ちゃんはまだ涙目ながらも笑顔を取り戻してくれた。
 うん、これで一安心だね。

 でもなぁ、魔力ってどう教えたらいいんだろう? 僕は初めからできたからどうやって教えたらいいか解らないや。

 ……はっ! 初めから魔力の操作ができるのって特別な事なんじゃ? と言う事はもしかして。

「ぼくのちーとすきうってまりょくそうちゃ?」

 そんなぁ、図書館の本には練習すれば誰にだって出来るみたいなこと書いてあったじゃん。
 神様、チート能力をくれるなら、もっと凄いのにしてよぉ!

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